オンライン署名サイトの「Change.org」で世界最大手ECサイトAmazonに対して仮想通貨「ドージコイン」での決済を求めるキャンペーンが実施され、1万2000人の賛同を獲得しました。署名はAmazonCEOのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏に送付されます。
データ参照元:https://www.change.org
大きな影響力と多数の顧客を持つAmazonで仮想通貨決済が導入されれば、一気に仮想通貨の流動性、そして価値は上昇するものと考えられます。今回の記事では署名の概要、ドージコインが選ばれた理由、Amazonが仮想通貨決済を導入する可能性についてなどをまとめて考察したいと思います。
Amazonは銀行口座を持たない人たちを排除している
同キャンペーンの発起人は、現在のAmazonは仮想通貨を決済手段として認めておらず、銀行口座を保有していない多くの人を排除していると主張しています。そして、多くの人を取り込むことはAmazon側にとっても有益であるとして、新たな決済手段としてドージコインを導入するように求めています。
銀行口座を持たない成人は世界で17億人超
銀行口座を保有していない人などほとんどいないのでは、と思われるかもしれませんが、世界銀行の調査によれば、銀行口座を保有していない成人(15歳以上と定義)は2017年時点で世界に約17億人も存在します。日本では当たり前の銀行口座やATMといった存在が、高嶺の花であるような国は意外と少なくないのです。
人口別に見た場合は中国が2億2400万人で最も多く、次いでインドが1億9100万人、パキスタンが9900万人で続いています。世界の銀行口座保有率自体は2011年の51%から2017年の69%に上昇しているものの、逆に言えば31%は銀行口座を保有していないともいえます。
では、こうした人達は普段どのように送金をしているのかというと、携帯電話を使っています。なんと前述の17億人のうち、約3分の2は携帯電話を通じて送金しています。
携帯電話は銀行口座よりも遥かに普及しています。2017年時点での携帯電話普及率(契約数÷人口)は、世界全体では103.5%、新興国でも98.7%となっています。1人で複数台持つこともあることを差し引いても、高い普及率と言えます。
今回の署名キャンペーンは、こうした携帯電話はあるが銀行口座を持たない人の利便性をさらに大きく向上させる可能性を秘めたものです。仮想通貨の送受金は携帯電話でも可能であり、なおかつ既存の送金手段よりも安価で高速です。こうした人達がAmazonで仮想通貨決済を導入するようになれば、彼らの生活はより便利なものになるでしょう。
なぜドージコインなのか?
今回の署名は「Amazonドージコイン決済ができるようにしてほしい」という内容のものでした。なぜビットコインでもXRPでもライトコインでもなくドージコインなのでしょうか。署名の発案者は「取引手数料が安価で、供給量が多く、コミュニティが成長を遂げているため」としています。
以下はドージコインとビットコインを簡単に比較した表です。
ビットコイン | ドージコイン | |
---|---|---|
誕生年 | 2009年 | 2013年 |
現在供給枚数(2018年9月6日時点) | 約1700万枚 | 約110億枚 |
発行上限 | 2100万枚 | なし |
単価(2018年9月6日時点) | 71万円 | 0.54円 |
ブロック生成時間 | 10分 | 1分 |
確かにドージコインはビットコインと比べて供給量が圧倒的に多く、おまけに単価も安いです。また、長年に渡り価格が比較的安定しているため、他の仮想通貨よりは導入が低リスクです。もちろんクリアしなければならない問題は決して少なくありませんが、ドージコインを選んだのは懸命な選択かと思います。
Amazonは仮想通貨を導入するか?
ただ、Amazonは営利企業であるため、最重視するのは銀行口座を持たない人たちの利便性向上ではなく、自らの利益です。Amazonが仮想通貨を導入するメリットはあるのでしょうか。答えは「ある」ですが、「仮想通貨の導入はハイリスクでもある」という但書が付きます。
まず、2018年9月7日時点で、Amazonは仮想通貨決済を導入していません。Amazon以外の大手Webサイトも同様に導入していないところがほとんどなので、特別Amazonだけが仮想通貨に否定的というわけでもないのでしょうが、現状では仮想通貨導入に対する動きは鈍いです。
Amazonが仮想通貨を導入するのに二の足を踏む最大の理由は、その価格変動の大きさにあると考えられます。この記事をお読みの皆さんはすでに御存知かと思いますが、仮想通貨の価格変動幅は法定通貨の比ではありません。例えばビットコインは2017年の1年間で約20倍以上の成長を見せましたが、2018年には3分の1近くにまで下落しています。
》2018年1月からビットコインが暴落している理由と今後の爆上げ材料
こうした価格変動の大きい仮想通貨での決済を受け入れることは、Amazonにとって大きなリスクとなりえます。仮想通貨決済を受け入れて大量の仮想通貨を取得し、その後暴落、などということになったら目も当てられません。もちろんAmazon側は入手した仮想通貨をすぐに法定通貨に戻すなどのリスクヘッジをするでしょうが、それでも法定通貨よりはリスクが大きいです。
もちろん価格変動が大きな利益をもたらすことになることも十分ありえますが、現時点ではそれを上回るリスクが有るために参入しづらい、というのが正直なところなのではないでしょうか。
生まれては消えてきた「Amazon仮想通貨決済導入説」
Amazonで仮想通貨決済が導入されるという噂は、これまでに何度も生まれては消えていっています。例えば、2017年10月には「Amazonが2017年10月26日にビットコイン決済を導入する」という噂が立ちましたが、その結果は皆さんの知るとおりです。
おそらくは仮想通貨投資家の「Amazonでビットコイン決済を導入”してほしい”」という願望がこのような噂を生み、それを拡大させたのだと思いますが、実際になぜこのような噂が生まれたかを確かめるのは極めて困難です。こうしたよくわからない噂に相場が左右されやすい点も、Amazonが仮想通貨導入に二の足を踏む要因となっているのかもしれません。
Amazonが仮想通貨に関するドメインを複数取得している理由は?
Amazonは2013年と2017年に、仮想通貨に関するドメインを取得しています。
- amazonbitcoin.com
- amazonethereum.com
- amazoncryptocurrency.com
- amazoncryptocurrencies.com
これを仮想通貨決済導入の兆候であると見る向きもありますが、この際にアマゾンペイのパトリック・ゴーティエ副社長は「まだ仮想通貨に対する需要が不十分なため、仮想通貨を代金決済に利用する計画はない」とコメントしています。
現時点では、他者にドメインを取得されるのを事前に防ぐための防衛策だと考えるのが妥当かと思います。もちろん、今後このドメインが利用される可能性はありますが。
Amazonが自ら仮想通貨を発行する日が来る?
Amazonは既存の仮想通貨を利用するのではなく、自ら仮想通貨を発行して顧客を囲い込むのではないか、と見る向きもあります。個人的には、この説が有力なのではないかと考えています。
BITCOINMAGAZINEでは仮にAmazonがオリジナル仮想通貨を発行した場合にどのようなことが起こるのかという考察が行われており、BITCOIN MAGAZINEでは、史上初の世界共通通貨になると結論付けられています。
参照元:https://bitcoinmagazine.com/
Amazon上でオリジナル仮想通貨のみが交換手段として使われるようになれば、消費者は必然的にそれを使うことになります。消費者がオリジナル仮想通貨を株式のように保有できる(Amazonそのものの保有者になれる)ようにすれば、消費者にも多くのインセンティブが発生し、一方、Amazonは多数の決済手段を受け付けることによるコストをなくすことができます。
双方にとってメリットがあるこの仕組みは、ビットコインやドージコインの導入以上に現実的な話なのではないかと思います。
ではビットコインやドージコインが全く使われない通貨になってしまうのかというと、そうとも言いづらいです。
十分な信頼性のあるオリジナル仮想通貨を発行し、しかもシェアを獲得できるのは、Amazonのような大きな信頼と資本がある一部の企業だけでなので、多くの企業はオリジナル仮想通貨ではなく、ビットコインを筆頭とする既存の仮想通貨を導入することになるでしょう。
そうなった時、仮想通貨は真に市民権を獲得するのかもしれません。